翌朝、日の出と共にルエラらは出発した。
 リム国とソルド国の国境は更地が続き、左手には荒野、右手には大河が流れる。向こう岸は切り立った崖になっていて、林が広がるのみ。曇っていなければ、木々の向こうに昇る真っ赤な朝日を拝む事が出来ただろう。
 大河に沿って上流へと歩きながら、ルエラは逡巡する。本当に、彼らと一緒に来て良かったのだろうか。迷っている場合ではない。一刻も早くヴィルマを捕まえなければならない。それがルエラの使命であり責務なのだからと出発を決めたが、国境を越える段になり、再び躊躇の心が首をもたげていた。ソルドに入れば、リムでの権威は何の意味も持たなくなる。ルエラの偽る私軍大尉と言う位も、ディンのレポス国王子と言う立場も、いざと言う時の切り札にする事ができなくなる。改めて、自分が今までどれほど権力に頼っていたかを思い知らされる。
「まーた、何か面倒くさい事考えてるんだろ」
 気付けば、ディンがルエラの横に並んでいた。
「レポスとヴィルマの関連は分かった。だがそれでも、やはりお前が直々に来る事はなかったんじゃないか? 他の者に任せれば……」
「それはお互い様だろ」
「私はお前とは立場が違う。ヴィルマは、私が捕らえなければ……」
「捕らえて、それでどうするんだ?」
 ルエラは目を見開き、ディンを振り返る。ディンは、至極真面目な表情だった。いつもの悪戯っ子のような笑みはなく、青い瞳は鋭く射抜くようにルエラを見据える。
「ヴィルマが魔女であり、人を殺めていた事は、リム国王が自ら目撃した紛れもない事実だ。火で炙るか? 拷問に掛けるか? 八つ裂きにするか? 自分の母親を?」
「わた、しは……」
 魔女は処するべし。
 ずっと心得てきた事だ。そして、ルエラにはヴィルマを捕らえねばならない責任があるのだと。だがそれは、つまるところ彼女を手に掛けると言う事。
 フッと、ディンは笑った。
「悪い、悪い。別に、脅すつもりじゃなかったんだ。まあ、捕まえてからの事は捕まえた後に考えればいいさ。もしかしたら、ヴィルマの方にも何か言い分があるかもしれねぇし。そうだといいな。何かどうしようもない理由があって……本当は、お前の知っていた通り優しい母さんだったらさ」
「……いや。そんな事実が分かるくらいなら、救いようもなく非道な人物だった方がいいかな」
 ディンは驚いたようにルエラを見る。ルエラは苦笑した。
「だって、彼女が虐殺を行っていた事実は変わらないんだ。どんな理由があっても、彼女の犯した罪は変わらない。だったら同情の余地が無い人物な方が、ずっと気が楽だ。ただ騙されていたのだと一時の感傷に浸って、時と共に忘れる事が出来る」
 恐らく、マティアスの中では既にそのように決着がついているのだろう。だから、ヴィルマが魔女だと分かった時にあれほどにも嘆いた。そして国民の意見が正しかったと認め、彼女を罪人として捜索した。伴侶だったにも関わらず、それまでかばっていたなどとは微塵も思えぬほどの冷徹な対応をしてのけた。その後クレアと言う新しい妻を迎えたのも、既にヴィルマへの想いは断ち切っていたから。
 ルエラも、そのように割り切ったつもりでいた。
『ルエラ……私達は、裏切られたのだよ……!』
 そう言って涙を流したマティアス。裏切られた。優しい母だと思っていたのに。そう思いはしたが、いざ処刑の事を思い躊躇うと言う事は、割り切れていないのかもしれない。
「私もお父様と一緒に、彼女の現場を目撃していればまた違ったのかも知れないな……」
「ああ……軍人を手に掛けようとしていた所を、リム国王に見つかったんだったけか。俺としては、その現場にお前がいなくて良かったと思うけどな。たまたま未遂に終わったけれど、もしかしたら殺される瞬間を目の当たりにしたかも知れねーんだしさ。んなモン、女子供が見るもんじゃない」
「ハハ、お前は相変わらずだな」
「でもそれまではずっと民間人を狙ってたのに、なんで突然軍人を狙うようになったんだろな。何件もの殺人が成功して、調子に乗ったか?」
「さあな……本人を捕まえない事には、確かめようがない。ただ、その軍人と言うのが魔女捜査部隊の者だったから、捜査を妨害するためではないかと言われているが……」
「本人と話した事はないんだ?」
「ああ。彼女の殺人は無差別だったからな……だが、それを理由に、被害者を避けていたのかもしれない。本気でヴィルマを探す気なら、こんな事では駄目だな。その線からも攻めてみるか。町に着いたら、城に連絡を入れてレーン曹長に調べさせてみよう」
 独り言のようにルエラは呟く。ディンは目を瞬いた。
「何だ。お前、ヴィルマの件、一人で調べてるって訳じゃないんだな」
「当たり前だ。もっとも、私がリン・ブローとして旅をしている事まで知るのは、一人だけだがな」
「それが、そのレーンって人物?」
「いや、違う。彼は臣下の一人に過ぎない。サンディ・ブルザ少佐が、私の正体も知る人物だ。今後も何か私に用があったら、彼に話を通すのが早いだろう」
「ああ。リンに用事があるつったら、出て来た人だ。なるほどな。『ブロー大尉はうちの隊の所属だから』って言ってたけど、そう言う裏があった訳だ」
「まあな。お前の方は、どうなんだ? お前の動きについて、把握している人物は?」
「あー……うちは、あまり。俺の場合、一先ず外で普段使うのはブラウンって姓にしているけど、いざって時には直ぐ正体明かしてるしな。旅にしたって、これまでは別に調べ事があった訳でもねーし」
「だから、自ら動いているのか……」
「んー、まあ、それもあるけど。でも、それだけじゃねぇよ。ただの犯人追跡と誘拐事件なら、俺だってちゃんと捜索部隊発足させて軍に任せたさ」
 ディンは声を低くして言った。
「……誘拐だって、確信が得られればな」
 ルエラは眉をひそめる。その言い方は、まるで――
 ルエラの胸中を読み取ってか、ディンは神妙な顔でうなずいた。
「フレディの話、お前も聞いただろ。妙な組織に、自分を誘ってきたって。その魔女が、フレディの兄貴にも同じ話を持ちかけていたとしたら?」
「な……まさか、自らついて行ったと言うのか!?」
 前を行くフレディを見やり、彼に聞こえぬようルエラも声を潜めて問い返す。
「まあ、一つの可能性って奴だな。そうと決まった訳じゃない。今のところ確かな事実は、ジェラルド・プロビタス大尉が行方不明って事だけだ。誘拐されたのかも知れないし、自分からついて行ったのかも知れない。あるいは、村と一緒に焼かれて灰になったのかも知れない。
 ただ、もしもプロビタス大尉が自ら魔女の話に乗ったのであれば――再び話を持ちかけられた時、フレディはどうするだろうな」
 フレディは、ルエラとディンの少し前を歩いていた。足を踏み出すのに合わせて、彼の茶色いポニーテールが揺れる。
 ルエラと同じように、魔女から勧誘を受けたフレディ。ともすると、彼はもっとルエラと近い境遇に陥っているかも知れないのだ。
「俺は、フレディを信じたい。そして、絶対にあいつを魔女になんて渡したくない。レポスの王子としても、一人の友人としてもだ。もし今後あいつが迷うような事があったら、話を聞いてやりたいし、踏みとどまらせたい。――命令して軍を同行させたんじゃ、ただの監視になっちまうだろ?」
「まあ、そうだな……。するとディン・レポス王子は、フレディのために魔女を追って異国の地まで赴く事にしたのか。まったく、お人よしと言うか何と言うか……」
 ディンはニッと笑った。
「もちろん、お前と旅をしたいからってのもあるぜ?」
「まさか、まだ諦めてないのか? しつこい男は嫌われるぞ」
「一般論なんてどうでもいいさ。お前は嫌うのか?」
「……そうだな」
「そこ、うなずくのかよ! え、マジで? 俺、実は思った以上に嫌われてる?」
 慌てるディンに、ルエラは少し笑う。
「冗談だ。でもまあ、さっさと諦めて他の妃候補を見つけた方がお前やレポスのためだと思うぞ」
「二回も振るかよ……」
「お前が二回も告白してくるからだろう。応えられもしないのに、曖昧な返答をする意味もない」
「おま……グサグサ刺さるんですけど……。
 そう言やアリーと親しい女って、お前、心当たりあるか? お前は、性別明かしてないんだろ?」
 自分の失恋から話を変えるかのように、ディンは切り出した。
「ああ。アリーの親友と言ったら、ユマかな。彼女と同じ町に住んでいた子で、仲が良さそうだったな。その子に掛かりそうだった魔女の嫌疑を、アリーが自ら被っていたぐらいだし」
「なるほど。そいつか、あいつの好きな奴って」
「え? ユマは女の子だぞ?」
「昨日、そんなような事をアリーが言ってたんだよ。あいつの好きな人、女らしい」
「へぇ……」
 以前アリーは、ルエラが自分の好きな人と似ていると言っていた。ルエラは男装しているのだから当然そう言うタイプの男性を好きなのだろうと思っていたが、相手が女性だったとは。ユマはルエラとは正反対のタイプで女の子らしい可愛い子だったが、ルエラも彼女の事をよく知る訳ではない。アリーから見れば、似ている面があるのかも知れない。
 アリーの姿を探し、ルエラは首を巡らす。アリーはルエラ達三人から二、三メートルも後ろを歩いていた。
 ディンとフレディも彼女の遅れに気付き、立ち止まる。アリーは足を速め、少し小走りになってやって来た。
「ごめんごめん、待たせちゃって……」
「大丈夫か? 少し速いか?」
 ルエラやディンは旅に慣れているし、フレディも旅こそしていないものの軍人として一定の訓練を積んでいる。しかしアリーは旅も始めたばかりで、フレディのような軍人でもない。多少他の人達より腕が立ち体力もありそうだとは言え、この中では一番疲れやすい事だろう。
「大丈夫。気にしないで」
「ったく。だから、お前は来るなって言ったのに……今からでも、帰るか? ここからなら、リムに戻った方が近いだろ。今からならまだ、街へ向かう汽車もあるだろうし……」
 ディンの言葉に、アリーはムッとした顔を見せる。
「大丈夫って言ってるじゃない。もう足は引っ張りませんよーだ」
 ベーッとディンに舌を突き出し、アリーはスタスタと歩いて行く。その背中に、ルエラは呼びかけた。
「無理はするなよ」
「大丈夫ーっ」
 明るい声が返って来る。
 ルエラは、ディンを振り仰いだ。
「お前が言いたい事も分かる。でも、彼女に帰る家は無いんだ。あまり、外そうとはしないでくれないか」
「それで、旅の同行を許したのか。でもだからって、あんな一般市民の女の子にヴィルマを追う理由なんか無さそうだけどなあ」
「……彼女は、ヴィルマの被害者なんだ」
 ルエラは静かに告げる。
 ディンも、フレディも、何も言葉を発せずにアリーの後ろ姿を見つめていた。

 やがて雨が降り出し、舗装のない道はぬかるみ、一行の歩みを妨げた。雨によってできた幾筋もの小さな流れを避けながら、北へ北へと歩を進める。雨自体はルエラの魔法により遮断していたものの、それでもやがて霧も出始め進行が困難となってしまった。
「少し休憩して、雨がやむのを待ちましょう」
 雨の音に掻き消されぬようにと、フレディが声を張り上げる。
「んな事言っても、雨宿りできそうな所なんかねーぞ?」
「そこは大丈夫です」
 フレディは、トンと長い杖で地面を突く。彼の視線を追うように頭上を見上げると、見えない壁があるかのように雨が弾かれていた。
「なるほど……防御魔法の応用か」
「僕の魔法は杖の力を借りていますから、術者への負担はほとんどない。任せてもらって大丈夫だよ」
「なら、お言葉に甘えるとするかな」
 言って、ルエラは自分達の周辺の雨への操作をやめる。途端に、雨音がその強さを数倍にも増した。
「こんなに降ってたのか。サンキューな、リン」
「水を操る魔法は得意だからな。これくらい、大した事ない」
「リンは、杖は持たないの?」
 アリーは、フレディの手元にある長い杖に目をやりながら問う。
「ああ。希望すれば支給はされるんだが、荷物になるからな。魔法を使えると言う事自体を伏せたい事もあるし……」
「でも、軍服着てたらすぐ分かるだろ。リムも、魔法使いには特有の印か何かあったろ」
「ああ。うちの場合は腕章になっていて、取り外し可能だ」
「まさか普段、外してるのか……」
 ディンは呆れたような目をルエラに向ける。ルエラは平然と言い放った。
「私は、王女勅命特務捜査員だ。その任務の性質上、制服着用義務の例外が適用される」
「そう言えば今回は、軍服も着てないね」
 出発時の服装を思い出しながら、アリーが言う。ルエラは、ワイシャツにカーディガン、私服の青いコートと言った一般市民と何ら変わりない格好だった。
「ソルドに出れば、リム国私軍所属の地位など何の意味も持たない。むしろ、ソルドとリムはサントリナ併合の件もあって、敵対こそしていないがあまり良い仲とは言えない。必要以上にリムの出身であると示さない方がいいだろう」
「そうなの? でも、サントリナは魔女の国でしょ? それを正したのがリムなのに、どうして?」
「お前の知識、偏り過ぎだろ。リム国内じゃ、そんな風に伝えられてるのか?」
「僕、学校行ってないもん」
 ディンに呆れられ、アリーはムッと頬を膨らませる。フレディが苦笑した。
「旧サントリナ国は、王女が魔女だと言う噂が広まって暴動が起こり、滅亡の道を辿った。国民の方はむしろ、魔女を非難していたんだよ。王族だって、王女が魔女だと蔑まれたからかばっただけで、魔女に対して否定的なのはリムやレポスと何ら変わらない。サントリナがあった時代からね。
 ソルド国は、サントリナ国と国交が盛んだったんだ。ソルドは林業、サントリナは漁業が盛んでね。防寒と食材、互いの特徴を生かして厳しい冬を共に凌いでいた。それから、サントリナは水や氷の扱いに長けていて、宝石の加工技術も優れていたんだ。ソルドの西には、ヨノムサ国があるだろう? そちらは石炭や鉱石がよく採れる国で、ソルドはヨノムサから輸入した鉱石を――」
「ちょ、ちょっと待って。そんなにいっぱい話されても頭の整理が追いつかないよ。えーと、ソルドとサントリナは仲良しさんだった。で?」
 フレディは苦笑し、続ける。
「うん。ところが二十九年前、サントリナで暴動が起こった。当然ソルド国としては、王族に暴動を鎮めてもらい貿易を続けたかった事だろう。でも、リム国が介入し、王国は滅亡しサントリナの地はリム国のものとなってしまった……」
「え……じゃあ、リムってサントリナを乗っ取ったの!?」
 アリーはぎょっとしたようにルエラを見る。
「まあ、結果だけ見ればそう言う見方も出来るな」
「問題は、アリーも元々知っていたようにサントリナの王女に魔女の嫌疑が掛かっていたって事なんだよ。国民は魔女を、そしてそれをかばう王族を恐れていた。リム国は、弱き国民に力を貸して魔女を成敗したとも取れるんだ」
「あ、そっか……え! でもそしたら、ソルドは魔女の味方をした悪い国って事!? そんな所に行って大丈夫なの?」
「だから、味方はしなかったんだよ」
 口を挟んだのは、ディンだった。
「もし噂の通りサントリナの王女が魔女なら、味方をする訳にはいかない。だからソルドは傍観に徹し、王族と国民どちらの味方にもつかなかった。しょせんは他所の国の事だしな。成り行きに任せたんだ。ま、俺としちゃ、肝心な時に黙って傍観決め込んでた奴らが、自分の思い通りにならなかったからってグチグチ言うなよって思うけどな」
「リムも、動いたのは結局のところ自分のためだぞ。間に雪山や荒野があるソルドと違って、リムは国境がサントリナと隣接している。いつ、暴動が国内に波及するか知れない。それを恐れたに過ぎないんだ。暴動の協力と沈静化に乗じて、サントリナの地も我が物にしている事だしな」
「そりゃあ、烏号の衆が王族討ったところで、新しい統率者が必要になるしな。それに、サントリナの国民は武器やら何やらリムから協力を受けたものの、国家規模の軍備に返せるような金なんか到底なかったんだ。だったら土地そのものを渡す事になるのは理に適ってるだろ。リム国も別に、それでサントリナの人達を虐げてる訳じゃない。リム国の一員として平等に扱ってるんだ。恨まれるような事じゃねぇだろ」
 ディンは軽い調子で言って、肩をすくめる。アリーは眉に皺を寄せていた。
「何か……難しい話なんだね……。ユマはこう言う事を、毎日学校で勉強してるんだ……凄いなあ……」
「こんなの、歴史のほんの一部にすぎねーぞ。最近の事件だし現在の国交に関わってくる事柄だから、俺達ぐらいになると常識だしな」
「『俺達』って、ディンを基準にするとすっごく限られた人達だと思うんだけど」
「まあ、王子のディンやリム国の私はともかく、フレディはよくそこまで詳しく知ってるな。さすがは、賢者様と言ったところか」
「僕は元々勉強が好きで、色々本を読んでいたから。ソルドとの関係については、今回行く事になったから調べた部分もあるしね」
 話している間に、雨音は幾分か弱まってきた。まだ魔法での遮断を続けていないとずぶ濡れになってしまうが、少なくとも声を張り上げずとも会話はできる程度だ。
「そろそろまた進むとするか。夜までには町に着きたいしな」
「そうだね。――あれ?」
「どうした?」
 フレディの視線の先を辿り、ルエラも振り返る。
 霧の中から、一つの人影がこちらに向かって歩いて来ていた。小柄な輪郭からして、女性だろうか。
「珍しいな。俺達みたいに、ソルドに向かう旅人か」
 ある程度まで進んだ所で、女性は前方のルエラ達に気付いたように立ち止まった。こちらを向いたまま、じっと立ち尽くす。
 女性は、真っ黒なマントをまとっていた。その顔はフードに隠れ、よく見えない。
「ありゃ。警戒されてる? そりゃ、そうか。こっちは複数、あっちは女一人みたいだしな。この霧じゃ俺達が子供ばかりだって、気付いてるかも怪しい」
 言って、ディンは女性の方へと足を踏み出した。
「おーい、あんたもソルドへ行くのか?」
 無害だと示すように両手を振りながら、ディンは女性に呼びかける。
 ひょおっと冷たい北風が吹いた。女性のフードが脱げ、その顔が露になる。
 ルエラは目を見開いた。長い黒髪。病的なまでに白い肌。暗い瞳。
 ディンは、彼女の方ヘと歩いて行く。
「俺達もなんだ。何だったら、町まで一緒に――」
「ディン、駄目!」
「下がれ、ディン!」
 ルエラとアリーは同時に叫んでいた。
「そいつは魔女だ!!」
 ルエラが叫ぶと同時に、ディンは後ろ飛びに退いた。虚空を、棘の付いた蔓が引き裂く。
「ディン様!!」
 尻餅をついたディンの元へと、フレディが駆け寄る。彼はディンを背中でかばうように、魔女との間に立った。
「大丈夫ですか? お怪我は」
「平気、平気。かすってもねーよ。――魔女って事は、手加減は必要なさそうだな」
 言いながらディンは立ち上がり、剣を抜き構える。
 ルエラとアリーも、その後ろで油断なく女を見据える。
「まさか、こんな所で再び出会うとはな……国外逃亡を図ろうとしていたと言ったところか。しかし残念ながら、ここで大人しく捕まってもらおう。――イオ・グリアツェフ!」


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2014.3.29

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