城は、戦乱の中にあった。門が開かれ、軍勢が押し寄せる。
 王女は魔女だ。魔女を殺せ。魔女をかばう王族を許すな。
 人々は、声高に叫んでいた。
「姫様、お逃げください! 我々が奴らを引きつけますから、その間に!」
 少女はマントを羽織り、その目立つ髪をフードの下に隠し、父親と共に脱出口へと向かう。戦火は、直ぐそこまで迫っていた。
「いたぞ!」
 叫ぶ声に、ハッと少女は振り返る。通路の向こうに、赤い軍服を着た者達がいた。私軍の者ではない。
 共に逃げていた男が、剣を抜き、前へと進み出た。
「お父様!」
「お前は先に行きなさい。ここは、私が食い止める」
「いけません。お父様も、一緒に……!」
「行きなさい!」
 彼は叱責する。そして、振り返り、微笑んだ。
「心配いらん。これでも、私も魔法使いだ。さあ、お行き。私の可愛い娘よ」
 少女は込み上げてくる感情を飲み込み、踵を返した。暗い道を、ひたすら走る。
 城に火が放たれる。火は瞬く間に、王女の部屋がある塔を包み込んでいく。
 塔を取り囲んでいた者達がどよめいた。窓に、人影が映ったのだ。紅蓮の炎に包まれ、うごめく影。その姿は、苦しみ悶えているかのようだった。
 人々の間から怒号と歓声の入り混じった声が上がる。魔女への罵倒。彼女の死への歓喜。共通するのは、憎しみの感情。
 やがて火は消え、煤けた城には、焼け焦げたティアラと鉢植えだけが残っていた。



 燃え尽き、崩壊した城。まだ煙の燻る城を、少女は丘の上の森から悲しげな瞳で見つめていた。
 ふいと少女は城に背を向ける。
 突如、強い風が木々の間を吹き抜ける。彼女のかぶっていたフードが落ち、緑色の髪が風に揺れた。


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2016.2.13

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